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このプロジェクトについて

この研究プロジェクトは、科学研究費・基盤研究(A)による不確実性と多元的価値の中での順応的な環境ガバナンスのあり方についての社会学的研究」という研究です。環境社会学などいくつかの学際的なプロジェクト・メンバーによる共同研究です。

 

この研究プロジェクトの目的は、多くの不確実性をかかえ、多元的な価値が存在する現実社会の中で、いかに環境ガバナンスの構築を実現させるか、その要件を多数の事例における社会学的調査から積み上げ式に明らかにし、さらにそれに基づく政策提言を行うことにあります。

 

具体的には、自然資源管理、野生生物管理、再生可能エネルギー、災害・復興といった多様な事例について、地域に分け入った詳細な調査を行うことによって、ボトムアップでの環境保全に求められる諸課題を抽出してモデル化します。

 

とくに、(i)地域の歴史を踏まえた多元的な合意形成の方策の研究、(ii)順応的なプロセス・デザインの方策とその中での中間支援のあり方についての研究、(iii)多様な主体が使える社会評価ツールと社会調査法の開発、の3つに焦点を当てます。

 

 

研究の背景と目標

研究の背景

 

今日、環境問題の解決へ向けて多くの科学が動員されるようになり、自然科学・社会科学双方での環境研究が国際的にも活況を呈しています。しかし、そうした科学的な知見を使えば環境の保全がうまく進むかと言えば、そうではありません。環境保全の現場では、「どういう自然が望ましいのか」「具体的な解決策は何か」「誰がそれを担うのか」といった現実の問題について合意が困難なことが多く、ときにそれが対立をもたらすことさえあります。

 

問題の解決が難しい理由の一つに、科学の不確実性の問題があります。科学は、ある一定条件下で観察されるデータをもとに蓋然性の高い仮説を抽出することを得意とします。しかし、現実の環境は複雑であり条件もさまざまです。常に不確実性をかかえた科学的な知見は、そのままですぐに政策に使えるわけではありません。そこにはどういう解決策が妥当かという問題をめぐって社会的な諸価値が存在しています。

 

それを乗りこえる社会的なプロセスが「合意形成」です。不確実性をもつ科学のデータをもとに、社会の構成員にとって何が最適解かを議論と合意によって決めるやり方です。しかし、この合意形成モデルもいくつもの困難をかかえています。「協議会」などの合意形成の場を作ってもうまく行かない例は数多く、そこでは、誰が合意形成に加わるべきステークホルダーなのか、そもそもどうすれば「合意」したと言えるのかなど、解けない課題が高いハードルとして存在しているのです。

 

どうすれば本当の合意形成は達成されるのか。どうすれば社会・自然双方の複雑性や変化の中で順応的に対応しつづけられるのか。どうすれば政策や活動のプロセスを柔軟にうまくマネジメントできるのか。どうすればグローバルな価値とローカルな価値は折り合いをつけられるのか。環境保全の現場でいつも問題になっているこうした課題を解決するには、望ましい自然や社会の形を最初から決めてしまうリジッドな方策は通用しません。複雑さや変化に柔軟に対応する方策のあり方が求められているのです。そうした方策を明らかにするためには、幅広い現場にかかわって、ミクロからマクロまでのさまざまなレベルの「社会」の動きを記述し分析する社会学的な調査研究が必要とされます。

 

私たちはかねてからそうした研究を積み重ね、そこから、英語圏での議論(Folke et al., 2005など)を援用して「順応的ガバナンス(adaptive governance)」という研究・実践上のフレームワークを提起しています(宮内泰介編『環境保全はなぜうまくいかないのか―現場からの「順応的ガバナンス」の可能性』2013年、新泉社)。順応的ガバナンスとは、環境保全や自然資源管理のための社会的しくみ、制度、価値を、その地域ごと、その時代ごとに順応的に変化させながら試行錯誤していく、変化や複雑さへの柔軟性を備えたプロセス重視の環境ガバナンスのしくみのことです。この「順応的ガバナンス」のフレームワークのもとで私たちは、理論的にも実践的にも成果を出してきました。しかし、多元的な合意形成はどう可能か、中間支援はどう可能か、どういう社会評価ツールがありうるかなど、さらに追求すべきテーマも多く浮かび上がってきました。そこにさらなる研究資源を投入して組織的に取り組もうというのが今回の研究プロジェクトです。

 

 

(参考)Folke, C., et al., 2005, "Adaptive governance of social-ecological systems," Annual Review of Environment and Resources, 30: 441-473. 

 

研究の目標

 

(1)豊富なフィールド調査から、順応的ガバナンスの諸テーマについての知見抽出

 

すべての議論の基本は詳細な調査だと考えます。この研究では、多くの事例を研究メンバーでそれぞれ分担して詳細なフィールドワークを行います。扱う事例は、自然資源管理、野生生物管理、環境保全活動、再生可能エネルギー、災害・復興、開発問題(ダム開発等)など広範にわたります。こうした広範な事例を相互に検証し合う中からこそ環境ガバナンスにかかわる重要な知見が生まれます。

 

各事例において、綿密な聞き取り調査・参与観察・資料調査を行うことにより、下図の共通テーマについて知見を引き出すことを目指します。

 

(2)順応的ガバナンスの多元的モデル構築

 

各地の事例の分析から引き出される中範囲の知見を相互にそして総合的に検証する中から、多元的な価値のもとでの環境ガバナンスにおける課題と解決策について抽出し、そこから、あるべきモデルを構築します。モデルは、不変でリジッドなモデルとしてではなく、可変で多元的なモデルとして構築します。とくに、上記8つの共通テーマの分析を踏まえ、

 

(i)地域の歴史を踏まえた合意形成の多元的な方策の検討と構築
(ii)プロセス・デザイン、プロセス・マネジメントと中間支援・専門家支援の方法についての検討と構築
(iii)多様な主体が使える社会的評価ツールと社会調査法の開発、の3つに焦点を当てたモデル構築

 

を行います。 

 

BOOKS

前回の共同研究プロジェクトの成果を『どうすれば環境保全はうまくいくのか:現場からの「順応的ガバナンスの進め方』(新泉社)という本にまとめました。

BOOKS

前々回の共同研究プロジェクトの成果を、2013年に『なぜ環境保全はうまくいかないのか:現場からの「順応的ガバナンスの可能性』(新泉社)という本にまとめました。

リンク

科研データベース上の本プロジェクトのページです。

プロジェクトの代表者・宮内の個人ページです。